普通は2年目になると卒業論文指導手帳を購入し,卒業論文指導を受けます。しかし私の場合は2年に進んだ時点で,まだ20単位程度しか取得していなかったため卒業論文のことなど考える余裕などありませんでした。また,無事卒業できるかどうかも見通しがたっていなかったせいもあり,なにか大げさな響きのある「卒業論文」というものにあまり近寄りたくなかったのです。もちろん手帳も購入せず,一般指導(テーマから指導教授を紹介される卒業論文指導の初段階)すら受けていませんでした。
しかし今振り返って考えてみると,卒業論文で何を研究するかが決まってしまえば学習の方向性が定まり,すべての学習を自分の卒業論文のテーマに関連付けて物事を考えることができるので,早めにテーマを設定するべきであったと思います。テーマが決まらずとも,せめて研究する作家くらいは決めたほうがよいでしょう。「英語がまだできないから」とか「単位がまだあまりとれていないから」など考える必要はありません。友達からの情報,文学ガイドのような本からの情報でもかまいませんから,とにかく作家と作品を早く決めることが卒業論文を余裕をもって仕上げるために重要になってきます。興味がもてれば,人が選んだ作家・作品をまねしてもかまわないのです。同じ作家・作品をえらんでも読む側の視点が違えば,切り口もかわってくるからです。
私の卒論の作家・作品は当初マーク・トウェインの「ハックルベリーフィンの冒険」でした。私はアメリカ英語を身につけたいと思っていたので,作品はアメリカの文学から選びたかったし,周りの仲間が「ハックルベリーフィンの冒険」を選ぶ人が多かったので,短絡的に私もこの作品に決めてしまったのです。しかし,私は自分の英語の向上のためにも,「原書をきちんと読む」という目標があったのですが,この作品は原書を読むにはあまりに長大であり,また南部方言が多く使われているため,読破には相当の時間がかかることがわかりました。「ハック」は確かに面白い作品であるのは間違いありませんし,資料も様々なものが手に入るので卒業論文にとりあげる学生は少なくありません。また翻訳本も複数の訳者のものを手に入れることができるので,日本語訳も比較できます。しかし私の第一の目標である「原書をきちんと読む」ことを達成するため,私はこの「ハック」をやめることにし,新たにJ.D. サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を研究することにしました。私がこの作品をとりあげた理由は,「口語」を使って書かれ,時代背景が現在に近い(1960年代)ので,作品を丁寧に読むことが,そのまま英会話の学習にも役立つと考えたからです。実際,「ライ麦畑でつかまえて」はもうすでに40年くらい前の作品ですが,中にでてくる会話フレーズは現在でも頻繁に聞くものが多くあります。また,この作品は原書で読むのにそれほど時間がかからない程度の長さというところが選択のポイントとなりました。このように卒論として取り上げる作品はいろいろな側面から考慮して選択する必要があると私は思います。中には原書をぜんぜん読まないで卒論を書く友人もいましたし,実際そうして作成した論文でも試問に合格すれば卒業は可能です。また論文としてよい仕上がりのものもあるでしょう。しかし英文学科で学んでいる人は基本的に英語を好きな人でしょうから,自分自身の英語力に直結するような作品・作家を選んで,きちんと読むことをお勧めしたいと思います。当初はあまり魅力を感じなかった作品でも,研究していくうちに,次第に好きになっていくということもあります。わたしもそれほど「好きな作品」というほどでもなかった「ライ麦畑でつかまえて」が,卒論を書き終えたときは「好きな作品」 になっていたのには自分自身少し意外な感じがしたものです。ぜひ自分に「ぴったり合った」作を見つけて下さい。
1.どの分野を研究するか
卒論テーマを決めるには,英語学・音声学・異文化間コミュニケーション・文学(詩を含む)・英語教育などから研究分野を決めることになります。英語学・音声学は英語で書かれた文献を多数調べる必要がある上,ワープロ(パソコン)を使って論文作成する際に,IPA 記号などのフォントを用意する必要もでてきます。また,音声学や異文化勘コミュニケーションでは文学の分野ほど資料が多くはないことも考慮する必要があります。その他には英語教育関係のテーマを選択する学生もいますが,文学分野で卒業論文作成をする学生が大半を占めています。それは文学では多様な作品の捉え方が可能なので,卒論研究対象として無難だからです。「多様な解釈が成り立つ」 ということは,逆に捉えれば 「曖昧さ」 があるということになり,これを嫌うひとは文学よりも英語学での研究を選択するようです。
文学を選択する学生は,実際ほとんどの場合イギリス文学かアメリカ文学から選ぶことになるでしょう。評価の定まった,有名な作品,作家については特に問題はないが,イギリス・アメリカ以外の作家・作品や児童文学を選択するには指導してくれる先生を探すのに苦労することになります。たとえ指導教員がみつかっても文献の数が限られているので,論文作成の際に苦労することもあるかもしれません。逆に一般的によく卒論研究対象に取り上げられる作家を選択した場合は,様々な研究書を参考にできること,日本語の文献・論文が多数あることなどが論文作成の際には大きな助けとなります。イギリス文学カナダやニュージーランドにも優れた文学があるのは事実ですが,残念ながらそれを研究している先生が少ないこと,文献が少ないこと,卒論として取り上げる作品は,評価が国際的に定まっている作家・作品を中心とするのが一般的であることから,英米文学以外の作品を研究対象とするのは推奨できません。
2.研究テーマ
多くの学生は文学を選択することが多いことから,ここでは文学を中心に述べます。イギリス文学を研究対象に選択する学生は,古典から近代までの作品から選択することになりますが,イギリス文学を研究している先生は多いので,著名な作家はほとんど選択可能でしょう。ただシェイクスピアなどの古典は古い英語で書かれているので原書を読むにはそれなりの覚悟が必要です。古い英語を調べるには,OEDなどにあたる必要もあるでしょう。私は原書で読むことを考えると,できるだけ労力の少ないものから選んだほうが現実的であると思っています。そのうような視点から作品を選ぶのは邪道であるかもしれませんが,理想ばかりを追い求めるよりも,現実的に卒論完成への近道だと思っています。
一方,アメリカ文学についてですが,こちらは歴史が浅いので,イギリス文学よりは選択の幅は狭くなります。私は「英会話」に役立つように,現代により近いものを選択しましたが,学生が卒論研究に取り上げることでよく耳にする作家はまず「マーク・トウェイン」があげられます。他では「ホーソーン」を選択している学生も意外に多いようでした。アメリカ文学,イギリス文学に限らず,文学分野で卒論を書こうとする場合の注意は「作家論」ではなく「作品論」にすることです。「作家」について論じる場合には,その作家の作品をことごとく「原書」で読む必要が出てくるので,物理的な面から考えても卒論で扱うには時間と多大な労力を要するからです。それよりはある作家の一作品について,作品論を展開するほうが,時間と労力は少なくてすみます。
また,英語学選択の場合は「前置詞」や「法助動詞」など,特定の品詞についてや,「時制」などについて研究・考察することが多いようです。卒業論文テーマ一覧を掲載するので参考にして下さい。
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