蓬莱
高いところで見えなくなっている青海原。明るいもやの中を通って混ざり合っている海と空。時は春,そして時間は朝である。そこにはただ空と海があり,無限の青一色である。前方にはさざなみが銀白色の光をとらえている。そして並みの泡の糸が渦巻いている。しかしながら,少し離れたところに物の動きは何も見えはしないし,また空の青さへと溶け込んでいる広がっている水の暖かくかすんだ色,それ以外には何もない。水平線はなく,ただ離れたところにただ虚空に高まって行く隔たりがあるばかりである。無限大のくぼみをつけたものが眼前に広がり,また,大きく弓形になっているものが頭上を覆っている。色は高さとともに深まっていく。しかしはるか遠く中空には,新月のように湾曲した,角が生えたような高い屋根のある楼閣の幻がかすかにかかっている。追憶のようなやわらかい陽射しに照らされた外国の昔の栄華の幻もこうであったろうか。・・・以下省略
富士の山
日本で最も美しい景色,間違いなく世界で最も美しいものの一つというものは,雲ひとつない日の遠くに見える富士山の姿である。とりわけ,春と秋の日々,頂の大部分が,春の遅い雪,秋の早い雪に覆われている時である。めったに雪のない裾野を空と見分けることができない。それは空と同じ色合いのままであるから。天国にぶら下がっているように見えている白い円錐だとわかる。その形状の逆さになった半開きの扇という日本人の喩えは,扇の骨組みのような,のこぎり上の刻み目のある頂上から下方へ広がる見事な筋であると,驚くほどぴったりにつくられている。その美景は,扇より軽くすら見えるのである。むしろ扇の夢か亡霊である。その上,百マイルほど先にあるその有形の現実は,地球上の山々の中でも崇高な山である。 ・・・以下省略 |